聞き書きの真意

今度の新刊『平成函館忘れない』のクレジットは

「写真 星野勲、聞き書き・構成 大西剛」としている。


これはあくまでも「聞き書き・構成」であって

「取材・構成」にはあらず、である。

これまで何度か地元紙等の取材を受けたことがあり、

また、自分も取材の真似事をしたような経験があるが、

取材する側も受ける側も、

なかなか「取材用の受け答え」という枠から脱しきれない。


テレビなんかでも、まだ場慣れしていないようなレポーターが

「どんな気持ちで○○されましたか」などと

インタビューしている場面をよく見かけるが、

「どんな気持ちで」といきなり尋ねられたところで、

常人なら、うまく言葉にまとめられるはずもなかろう。


だけど無理して答えようとするのが、

サービス精神というか、現代人の性(さが)というか。


野球選手以外の人まで、マイクを向けられたらいきなり

「そうですねぇ~」なんてやるのは、

明らかに、心にある思いをまとめるための時間稼ぎだと思う。

(何も話の始まらないうちから、相槌を打てるはずもないが)

「あのぅですねぇ~」「えっとですねぇ~」なんていう

バリエーションも加わった。


そして、この一連のやり取りで出てくるのは

通り一遍の話がせいぜいだろう。

こういう場面を見ていると、他人事ながら

「こんなことで、いいのだろうか」とハラハラ、ドキドキしてしまうのだ。

頭の中に、インタビューの神様が現れて

「バカヤロー、もっとよく考えて質問しろ」と

怒鳴りつけている映像が浮かんでしまうからである。


さて、『平成函館忘れない』に収録した写真について、

聞き手は、

「どんな気持ちでシャッターを押されましたか」

みたいな質問は一切していない。


そんな問いかけをしなくても、

星野さんが私に写真を見せるとき、

ご自身で自発的にいろいろ話してくださるのだ。

撮影の状況、そのときの天候、なぜこんな場所まで出向いたのか、

あるいはそのころの写真界、写真仲間の様子などなど。

また日ごろから写真観にカメラ論、フィルム論なども聞いている。


だから掲載写真それぞれについて、逐一質問をせずとも、

星野さんの気持ちになりきって説明文が書けるのだ。

もちろん100パーセント星野さんではないから、間違いや勘違いもある。

だがそれは、ご本人に確認を取れば済む話。


情報誌などで食べ物屋の取材でも、

アポを取って行ったなら、たぶん「よそ行き」の話を用意して待っている。

場合によっては、店内の様子、料理の盛り付けなども、

少々「よそ行き」になっているかもしれない。


片や今は普通の人が、

思うがままに「食レポ」(書いているだけでジジイは気恥ずかしくなる言葉)をして

ネット上は「普段着」の写真が溢れている。

平成函館忘れない

短いようで長かった平成時代。その間の函館の出来事を振り返ります。新函館ライブラリの函館本とも連動しています